提案の内容・目的について
提案の背景と課題
ユビキタス社会の実現に向けてさまざまな技術開発,実証実験が盛んに行われているが,近年は提供するサービスが画一的なサービスからユーザの状況に合わせたサービスへと進んできている.センサーネットワークから得られるユーザの位置や移動履歴,時間などを状況として用いる手法が多く見られるが,同じ時間に同じ机に座っていても文書を作成している時と食事をしている時では状況が異なるように,単純なセンシング情報のみでの判断には限界がある.状況には周りの物の状態や人の意図といった状態も含まれており,特に意図は最適なサービスを判断する上で最も重要な要素のひとつであるが,センサーでは検知できない.
ユーザの状況をより的確に判断し,きめ細かいサービス提供を行う次世代のユビキタス社会実現のためには,人間の意図をも検知して状況を総合的に判断し,順応できる仕組みの開発が必須である.
提案内容
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本提案では、全ての人がプライバシーを守りつつ付加価値の高いサービスを享受できる安全で快適なユビキタス社会の実現を目指して、個人が携帯することができ、その人の行動を認識して意図を推定し、それをユビキタス基盤側に通知する知的センサとしての働きをもった、ポケット・アシスタントを実現する。
ポケット・アシスタントは、あらかじめ個人ごとに特定状況での行動の習慣や癖をパターン化しておく。そのパターンのデータと実際の行動のログを比較することによって、ユーザの意図を推定する。推定された意図を基にネットワークを通じてユビキタス基盤上のサーバにアクセスし、各ユーザに最適なサービスを先行的(proactive)に提供する。これにより、自分専用のアシスタントがあたかも傍にいるかのような「気がきく」電子環境を実現することができる。
以上のような機能の実現のため、本提案では以下に示す5つの項目を開発する。
- 人間の行動を検知するための知的センサ空間であるTaggedWorld(*)構築機能
- 行動ログを収集し、行動パターンと関連付ける能動型ストリーム・データベース
- 人間の癖や習慣に基づく行動パターン抽出機能
- ユビキタス基盤とポケット・アシスタントの協調機能
*TaggedWorld・・・人間の行動を検知する知的センサ空間[図1参照]。
ユビキタス基盤環境内にポケット・アシスタントを携行したユーザが入ると、それぞれのユーザに対して固有の、パーソナルな空間としてのTaggedWorldが形成される[図2参照]。そのパーソナルな空間において、ポケット・アシスタントは空間に貼り巡らされた電子タグの情報からユーザの行動を検知し、意図を推定してユビキタス基盤とやりとりする。これによってユーザはIT端末などを意識することなくサービスを享受することができる。
図1.TaggedWorld概要図 図2.パーソナルな空間としてのTaggedWorld
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どんなサービスが適切かは状況に強く依存する.図1に示すように,同じ場所でも状況が変化したことを検知し,新しい状況に応じたサービスを提供することが重要である.
我々は平成16年度次世代ソフトウェア開発事業において,人間のふるまいを認識し意図を推定するポケット・アシスタント(末尾の用語解説参照)を開発し,多くの実証実験を重ねてきた.この成果に,新たに開発する周囲の物体や人の状態を検知する技術を組合せ,状況を的確に判断する仕組みを実現する.
本提案では,状況はエリア内の物と人の状態で定義されるものとする.すなわち
(e, s(oi), …, s(ok), σ(hm), …,σ(hn))
で表現される. ここで,e は物理的な空間であるエリアであり,s(oj) はエリアe内の物 oj の状態で,その位置とセンサーから収集された属性値で構成される.この属性値とは,たとえば,部屋ならその温度,扉なら開閉状態,家電製品なら電源のON/OFFなどである.また,σ(hp)はエリア e 内の人 hp の状態で,その人の位置と,所持するポケット・アシスタントがふるまいを認識し推定した意図からなる.
本提案では,いつでも,どこでも,状況に合ったきめ細かいサービスを享受できる快適なユビキタス社会の実現を目指し,ふるまいの認識を通して推定した意図とユーザの周りにある物体の状態から決まる状況に順応してユーザに最適なサービスを臨機応変に提供できる環境であるTaggedWorldを実現する.このような環境を実現するために,図2に示すように,人のふるまいを見守るサーバであるポケット・アシスタントのほかに,人がいるエリアの情報を管理するサーバであるエリア・コンシェルジュを構築する.さらに状況は徐々に変化していくことが多く,これに鋭敏に順応するためには,ポケット・アシスタントとエリア・コンシェルジュから最新の情報を受け取って監視し,状況が変化すればそれを両者に伝えて協調させる仕組みが必須となる.本開発ではこれを状況キャッシュと呼ぶ.
本提案では,
- 人を司るポケット・アシスタント,
- エリアを司るエリア・コンシェルジュ,
- これらを協調させる状況キャッシュ
の三者により,気は利いているが決してでしゃばることのない快適なサービス提供の実現を目指す.
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