開発されるソフトウェアの実現方式


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 本提案では、人間の行動をパターンを使って認識するために、人間の振る舞いを以下のようにモデル化する。
アクト:RFIDシステムでセンシング可能な人間の行いの最小単位
アクション:意図を達成するために実施するアクトの並び (例:靴を履く、鍵を持つ)
振る舞い:特定状況で習慣的に行うアクションの集合
先の基礎実験の知見として述べたように、ユーザが意識している「行動(アクション)」をひとつひとつ独立して考えてみると、その中のアクトの順序や発生タイミングにパターン性を見出すことができる。

 このようなモデル化に基づき、アクトの並びとしてアクションを捉え、アクション内のアクトの順序、発生タイミングのパターンを各人の行動記録から抽出する。
本提案では、以下のような項目を開発する。

  1.   TaggedWorld構築機能
     RFIDの電子タグとリーダは、それらが相対する向きや距離によって認識率が大きく変化するので、行動をアクセスデータとして取得するのに効果的な電子タグの貼りつけ位置を見つける必要がある。また、複数の電子タグへのアクセスがひとつのアクトに対応していることがあり、これらを関係付ける必要がある。これらの作業を支援するツールを開発する。
  2.   能動型ストリーム・データベース
     各ユーザの電子タグへのアクセス履歴をもれなくデータ・ストリームとして収集する能動型ストリーム・データベースを開発する。アクセス履歴は、各ユーザが手や腰に装着するRFIDリーダで感知する。また、アクセス履歴と行動パターンを実時間で照合し、一致すればパターンに関係付けられたプログラムを起動する。
  3.   行動パターン抽出機能
     各人の習慣や癖をあらわす行動のパターンを抽出するためのツールを、次の3つに分けて開発する。
    ◆ 行動の特徴の大枠をパターンとして指定するツール
    人が行動する際には、各人が無意識に頭の中に描くアクトの並びがある。この並びを、アクションのパターンとして指定するツールを開発する。
    ◆ 行動パターンを実際の行動ログを用いて洗練するツール
    計算機で行動を認識するには、アクション内のアクトの発生の順序、タイミングなど細かい特性を指定し、行動パターンを洗練する必要がある。本提案では、実際に収集された多くの行動ログを使って各人の行動パターンを洗練する。
    ◆ 行動パターンを抽出するツール
    個人に対応したサービスを提供するためには、癖や習慣に基づいている一定の行動パターンを自動的に抽出する必要がある。本提案では、ユーザの行動履歴から癖や習慣に基づいた行動パターンを抽出するためのツールを開発する。
  4.   ユビキタス基盤とポケット・アシスタントとの協調機能
     ポケット・アシスタントは、ユーザの行動を認識して現在の行動の目的や予測される未来の行動を推定し、これらを支援するためのサービスの提供をユビキタス基盤に依頼する。ユビキタス基盤の中にはさまざまなサービスを提供するサーバが存在するため、最適なサービスの探索機能が必要である。本提案では、ポケット・アシスタントが行動の目的や未来の行動を推定する機能、ユビキタス基盤から最適なサービスを探索するディレクトリ機能、探索されたサービスをユーザに提供する機能をソフトウェアとして実現する。
  5.   プライバシー管理機能
     ポケット・アシスタントとユビキタス基盤が協調する際の通信において、ポケット・アシスタント上の個人情報を保護しながらユビキタス基盤に必要にして十分な情報を提供する方式とそれを実現するソフトウェアを開発する。 また、さまざまな人が利用するユビキタス基盤からポケット・アシスタント上の個人情報を辿られることを防止する必要があるが、これはユビキタス基盤上のサービス利用時に、そのとき、その場所だけで有効なスポット的なIDをポケット・アシスタントへ割り当てるなどいくつかの手法を組み合わせて解決する。

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  1.   位置情報データベース
     これまでは物体同定に使っていたRFIDタグを位置同定にも使用する.すなわち,壁,ドア,家具など,位置が容易に変わらないものに貼ったタグからユーザ位置が判明する.また,家電品を操作したことがセンサーから通知されても,その近くにユーザがいたことが判明する.これらの情報からはユーザの位置を細粒度で同定できるが,散発的な同定になる.ユーザがUHF帯RFIDタグを携帯すれば,直接的にユーザ位置を同定でき,かなり連続性をもった位置同定ができるが,粒度は認識距離と同じ数m程度である.このような時間的連続性と粒度の異なる位置情報を統合的に扱い,ユーザや物体の位置を実時間でトラッキングするデータベースを開発する.
  2.   OWLデータベース
     これまでOWLは各タグがいかなるアクションを検知するためのものであるかを示すために使用した.アクション抽出機能に必須となるこの機能に,物体の現在の状態を表現する機能,その物体を触った人の位置を示すための機能を追加する.
  3.   エリア・コンシェルジュ
     物体の状態を示すセンシング情報はOWLデータベースを使って管理し,現在の人や物体の位置は位置情報データベースで管理する.そして状況を同定するのに必要なデータを状況キャッシュに渡す.状況決定の通知を受けると,ユーザの位置や物体の状態からユーザが望むであろうサービスを推定し,ユーザにその実行可否を問う.また,ポケット・アシスタントからの要求があれば,エリア内の物体のOWL記述からポケット・アシスタントが期待する機能をもつ物体を探しそれに貼られたタグを知らせる.
  4.   アクション抽出機能
     平成16年度の開発で,アクトは物体へのアクセスであり,アクションは意図達成のためのアクトの並びであると定義した.また,OWLで表現されたタグ設置情報にはどんな意図を発見するために貼ったかという情報が含まれている.行動ログ内で頻出する順序対をもつアクトの集合をデータ・マイニングし,OWLに記述された意図と照合することにより,意図に対応したアクションを抽出する.
  5.   タグ辞書機能
     特定の意図に対応する行動パターンを,普段と異なる場所でも検知できるポケット・アシスタントを実現する.このためには,普段と同一の物体でなくともそれと同じ用途の物体であれば同一のものとみなす機能が必要となる.本開発では,ポケット・アシスタントの内部の「タグと物体の対応表」を着脱可能な辞書とし,必要に応じてこの辞書をエリア・コンシェルジュより取り寄せ,入れ替えることでこの機能を実現する.
  6.   意図発現助長型ポケット・アシスタント
     意図は行動に発現するので,行動を邪魔しない形態のポケット・アシスタントが必要である.本開発では,指などに装着するアンテナ部分,RFIDリーダ部分,ふるまいを認識する計算機部分に分けて考え,それぞれを小型化する.特に,アンテナ部分を指輪のような形態にし,上記の目的を達成する.
  7.   状況キャッシュ
     状況は徐々に切り替わっていくことが多い.そこでエリア内の物体の状態や人の意図,位置を管理する仕組みとして状況キャッシュを開発する.すべての対象の状態を(対象ID,属性ID,属性値)というユニバーサルな形式で表現する.状況キャッシュはそれ自身,能動データベースとして動作する.たとえば,確度を示す確率とともに意図をポケット・アシスタントが書き込む.このときに起動されるルールを用いて,意図に関係する物体の状態をエリア・コンシェルジュからスワップ・インする.データがスワップしたタイミングで起動されるルールで状況の推定を試み,推定できればポケット・アシスタントとエリア・コンシェルジュに通知する(図4参照).これによりポケット・アシスタントは行動パターン集合を切り替え,エリア・コンシェルジュはサービス集合を状況に適合したものに限定する.

    状況キャッシュ

  8.   即興セレクタ
     状況に照らして最適なサービスが推定されたとき,サービス実行の可否をユーザの近くにあるタグ付けられた物体へのアクセスでユーザに問う仮想的なセレクタである.ユーザは実機器を操作できないときに,即興セレクタに手を近づけて意思表示ができる.たとえば,ユーザがマニキュアをつけているときに電話機がなったとする.ポケット・アシスタントはユーザが化粧中であることを認識し,エリア・コンシェルジュがユーザが部屋にいること,受話器を取らないことを状況キャッシュに書き込む.このとき,図5に示すように,ユーザが受話器を取れない状況であることが認識され,「ドライヤに手を近づければ電話をハンズフリーに,ブラシに手を近づければ留守番電話にします.どちらにしますか」とユーザに問う.

即興セレクタ





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